枯れたからもう捨てたけど魔王つて名前をつけてゐた花だつた
藪内亮輔「魔王」(『京大短歌 通巻19号』)
枯れたからもう捨てたけど――シンプルな理由によって「花」は捨てられた。その花には「魔王」という名前がつけられていた。
魔王のような外観をもつ花の名を挙げることは恐らくこの歌の解釈にとって意味を持たないだろう。「魔王のやうな花だつた」のではなく、「魔王つて名前をつけてゐた花だつた」のである。
名付け――他者への一方的なアイデンティティの付与――とは、対象への倒錯した自己意識の投影である。実際に存在した花は既に捨てられ、今はただ回想の中に魔王という名の花が偏在するのみだ。この偏在性を、人は愛と呼ぶのかも知れない。
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