短歌結社誌『塔』の10月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『塔』2012年10月号に掲載されているすべての短歌より5首選んだ。掲載順に記す。
1 黒ずんだ畳のうえの招き猫 だれもいないのでカメラを向ける 吉川宏志
2 ふくらはぎ削ぐように塗るクリームの、嘘ならばもっと美しく言え 大森静佳
3 髪の奥のUピンの熱 かたかたと鳴る夕闇に花火を待った 大森静佳
4 幾重にも入りくむ高架すりぬけて肩にふり来る水無月のみず 田村龍平
5 蝉時雨ふいに鳴りやむ静寂に放り出されるあおぞらの青 田村龍平
『塔』を毎月読んでいると、1のような「渋い吉川宏志」とたまに出会えて楽しい。まったく気負いのないこなれた表現から繰り出される閑寂な世界観には、ある種の「悟り」のようなものが感じられる。
2――上の句の「削ぐ」という語を使用した鋭い身体描写が、読点によってわずかに希釈されて下の句につながることによって、「嘘ならばもっと美しく言え」というフレーズの切れ味が最大限に引き出されている。
3――Uピンのミクロな存在感が誇張された後に開けた視界が導入され、また、「かたかた」と云うやや突飛な擬音語が置かれることによって、多様な身体感覚が同時的に感情を生み出す様がリアルに再現されている。
4、5の、「水無月のみず」、「あおぞらの青」という重複表現を敢えて結句に用いる手法は興味深い。
いつもありがとうございます(深謝)
返信削除大森さん良いですね。上手いなあ。
10月号、まだこちらには着いてないのです。明日あたりには着くかな。
10/20〆の10首は文語旧かなに挑もうと思っております。
なにぶん素地がないもので奮闘しております。
またいつかお会いしましょう。ありがとうございました!
文語旧仮名に挑戦されるんですね。田村さんの作風は、口語旧仮名でも面白いと思いますが…。
返信削除田村さんの作品、いつも楽しみにしてます。また、どこかでお会いしましょう。