2012年9月15日土曜日

南京の街を歩めば

南京で一か月間語学留学する。日本では見られない繁栄と成長の熱気につつまれて、最初はただ物珍しさに目をしばたかせていたけれど、慣れてくると、南京の抒情の核心というものは、表通りから少し奥まった所にある雑多な生活環境にあることがわかった。空間から人の息遣いが聞こえるようで、また、壁やひさしや、干してある洗濯物にカラフルな色合いが見出せて楽しい。ただ、そういう雑多な面白さは写真には残せても歌にすることは難しかった。詩情が身体に沁み込まず、軽く流すように詠むよりほかに策がない。異質でおもしろいのだけれど、異質すぎたのかもしれない。午前に学び、午後に歩くことによって、中国語や街の雰囲気についての理解は日増しに深まったけれど、日本の、京都の北白川の、閑静な町並が偲ばれて、帰国の二週間前はやや力なく、最後の一週間になるとにわかに活気づくありさまであった。最終日、晴れ晴れとした心持で、空港までのバスにゆられながら、南京の市街地を取り囲む明代の城壁に沿うように、早朝の鈍色の雲がうすくたなびき、ちょうど壁のすぐ手前に2羽の鳥が小さく絡み合いながら飛ぶさまを見たとき、一か月の滞在では知ることのできなかった南京の顔がまだ無数に存在することが思われて、少しだけさびしくなった。

南京に朝はおとづれクラクションのけたたましくも鳴り初むる哉
南京の街を歩めば片隅に猫空・咖啡店マオコン・カーフェイディエン招牌ジャオパイ
南京の街を歩めば遠景は霞の奥に霞むビル群
南京の街を歩めば路地裏に干されし服の青・緑・青

2 件のコメント :

  1. 荒川 晋冶2012年9月23日 18:44

    景冬さん、こんばんは。ご無沙汰しておりました。
    そうでしたか、1か月間、南京へ語学留学に行っておられたんですね。

    先ほどはありがとうございました。
    国家資格を取得した暁には、待望の、商売ではなく相談支援の専門職として働くことができるので、今は一安心といったところです。まだ気は抜けませんが。

    掲出の文章とお写真、藤原新也の『全東洋海道』を思い出しました。通りを入った所の、雑多な人の営みの中に叙情を感じられたところが特に。

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  2. 晋冶さんは精神保健福祉士として働かれることを目指していたんですね。勝手に社会福祉士の方だと思い込んでました。晋冶さんの目標に向けて確実に為すべきことを為す姿勢には頭が下がります。

    藤原新也さんの写真と文章、僕は好きってわけではないですけど、有無を言わせぬ吸引力がありますよね。『全東洋海道』はまだ読んだことないんで、また今度読んでみたいです。

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