一俳句ファンが勝手につくってしまう秀句選、第5回は木下夕爾(1914~1965)だ。彼の創作活動は自由詩から始まったが、戦時中の1943年頃から俳句も詠み始めた。木下夕爾の詩を一つ紹介したい。
内部
その窓は閉ざされたままだった
中には誰もいなかった
机の上はきちんと片付いていた
読みさしの本が置いてあり
インクの壺はからからに乾いていた
これから何かがはじまるようにみえた もう終わったあとかもしれなかった
とにかくひっそりかんとしていた
壁には古びた人物像の
眼だけが大きくかがやいていた
それに追い立てられるように
窓枠のすきまから覗いていたてんとう虫は
向きをかえ背中を二つに割って
燃える光の中へ飛び去った
細かい情景描写からクライマックスのてんとう虫の登場への劇的な流れが素晴らしい。
朔多恭編『木下夕爾』(蝸牛社)所収の300句より6句選んだ。概ね年代順に記す。
1 こころふとかよへり風の青すだれ
2 春の虹船は弧をもてならびたる
3 夕焼のうつりあまれる植田かな
4 こほろぎやいつもの午後のいつもの椅子
5 かたく巻く卒業証書遠ひばり
6 遠雷やはづしてひかる耳かざり
詩情が17音に収まり切らず溢れだしている。
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