短歌結社誌『塔』の11月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『塔』2012年11月号に掲載されているすべての短歌より6首選んだ。掲載順に記す。
1 知らない街の写真を飾る知らない街はずっと夕暮の街でいるから 廣野翔一
2 ブランデーのかをりの抜けぬ空瓶に耳を寄せれば
3 まばたきのたびにあなたを遠ざかり息浅き夏を髪しばりたり 大森静佳
4 視ることの昂ぶりにいる 空間を圧しながら輪をひらく花火は 大森静佳
5 雲のことあなたのことも空のこと 振り切ることのいつでも寒い 大森静佳
6 肉づきのよい雲きらい 川べりを水の速さに遅れて歩む 大森静佳
1は、随分と当り前のことをいっているようだけれど、人為の集合体である「街」の中から「夕暮」というアスペクトのみが抜き取られた、切り捨てられた街、という存在にどこか惹かれるものを感じた。
2は、視覚と嗅覚と聴覚の魅力を「空瓶」に集約させた楽しい作品。「
3、4、5、6の大森静佳の、映像性と身体性が不可思議に入り組んだ作風は既に円熟の境地に達していると云えよう。川の流れのような流動性と強さを秘めた、激しい動きを見せる韻律、5の「寒い」、6の「きらい」のように、読者の意表を突いてふいに差し込まれる言葉の強度――他のどの現代歌人にも見られない独自のスタイルが素晴らしい完成度をもって展開されている。
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