『早稲田短歌四十一号』(早稲田短歌会)を読んだ。
この雑誌には多くの歌人が参加していたが、皆個性的なスタイルで奇抜な作品が目立った。この雑誌に載っているようなどこか若々しく攻撃的で、情念の濃い作品が最近のトレンドなのかもしれないが、私にはどうも、なにか爆発的な感情は読みとれるのだけれどもそれ以上の感情移入ができない作品が多かった。時代に取り残されたような淋しい心持ちがする。ただ、
祖父の記憶は雪に近づきわたくしはピエロの顔をしたゆきだるま 田口綾子
新しい国になりたいならおいで電気はつけっぱなしでいいよ 平岡直子
おっぱいのせいで内面的なものがうまれくる ここ ここにも皮膚が 山中千瀬
この3首はすごく面白いと思った。特に一首目の田口綾子氏に私はある思い入れがある。
2009年7月18日の「朝日新聞(夕刊)」に田口綾子の連作「風上に立つ」が掲載されていた。そこには、
飲みものを迷へるひとの財布から多少はみ出てゐる図書カード
胡椒挽きのもつ
傘を差す君の腕には君の血が流るることから目を逸らしたり
坂ひとつ越えて梅雨明け 背骨まであかるく君の風上に立つ
のような作品があったのだけれども、私はこれらの作品を見て無性に自分も短歌を詠んでみたくなった。それ以前は短歌に興味はあっても自分で詠んでみようという発想はなかった。このときに詠んだ数首の短歌はあまりにもできが悪く、私が本格的に短歌を始めるのは2010年の12月となるが、もし田口綾子氏の歌を見ていなければ短歌を始めることはなかったかもしれない。
確かな観察眼に裏付けされた情景描写に、現代的な感慨を巧みに乗せる手法には彼女の高い技量を窺わせるが、それだけではない。どこか洗練され切らない素朴な旋律が読むものの心を打つのだ。現代において特別な価値を持つ歌人の一人だと思う。
>坂ひとつ越えて梅雨明け 背骨まであかるく君の風上に立つ
返信削除この歌・・・うまく言えないけど、とても素敵ですね。
言葉に無駄がなく・・・ううん、そういう技術的なことを言いたいんじゃなく、なんだろう。心にすっと入ってくる歌、そんな感じです。
感情を詠む言葉が何ひとつなくても、感情がちゃんと読み手に届く歌だと思います。
「背骨まであかるく君の風上に立つ」っていう表現がいいですよね。
返信削除HANAさんがおっしゃるようにこの歌はすべての語がまったく無駄なく連係していて見事な上に、妙に素直に情景が把握できるところが素敵ですね。