2012年4月30日月曜日

2012年4月

4月に詠んだ短歌をまとめておく。既にこのブログに公開した歌が4首、そうでないものが17首で、計21首。御感想を頂けると嬉しい。

残照

緑色の世界をみてゐた虫の眼に燃えるグラジオラスの残照
(靉光「グラジオラス」)

もつとたかいところへゆけたら空のやうに僕たちもまた青い存在
(天之蒼蒼其正色邪、其遠而無所至極邪 、其視下也、亦若是則已矣  荘周『荘子』)

木の肌と同じ色もてあをによし奈良の小鹿のたたずまひ見ゆ

紅白のはちす花咲く東大寺襖の内に風わたりける
(小泉淳作「蓮池」)

ともしびを順にならべて東大寺鹿はいづこの宿に眠れる

あたたかい朝もあるから自転車の空気を入れて並木道ゆく

桃色のしだれ桜をかたはらに平等院の春風は吹く

薄日さすもみぢの青さたしかめて桜ちりしく宇治の道ゆく

はなびらと見まがふほどに紋黄蝶さくら舞ひふる鴨川にとぶ

自転車の骨組みゆるく解体し春の風うつ両翼となる

ひともとの楽園 熊蜂くまんばちが来て白詰草の先にとまれり

おもたくて――柔くたわめる茎を持ち白詰草に熊蜂垂るる

オレンジ色の層をにじませ暮れてゆく町のあはひに漕ぎ出づる舟

春雨の降る音がする 菜の花の黄色は届かない場所にあり

春雨の降る音がする 楠を順にめぐつて匂ひ立つ朝

春秋をかさねて青き楠の葉のちりゆくものとちりゆかぬものと

もみぢせる葉影ちりゆく楠に残れる若き青き葉を見る

鉄のドアの前にたたずみ色もなく暮れゆく町の蝙蝠を見る

ドアノブは冷たくふれて色もなく暮れゆく空に蝙蝠が飛ぶ

薄翅に白く陽のさす常磐木の葉影ふるなへさまよへる蝶

松かさはすてられずありかごとともに、わたしとともに初夏の町ゆく

2012年4月29日日曜日

初夏の町

青蓮院へゆく。庭の完成度が素晴らしかった。

松かさはすてられずありかごとともに、わたしとともに初夏の町ゆく

2012年4月16日月曜日

早稲田短歌四十一号

『早稲田短歌四十一号』(早稲田短歌会)を読んだ。

この雑誌には多くの歌人が参加していたが、皆個性的なスタイルで奇抜な作品が目立った。この雑誌に載っているようなどこか若々しく攻撃的で、情念の濃い作品が最近のトレンドなのかもしれないが、私にはどうも、なにか爆発的な感情は読みとれるのだけれどもそれ以上の感情移入ができない作品が多かった。時代に取り残されたような淋しい心持ちがする。ただ、

祖父の記憶は雪に近づきわたくしはピエロの顔をしたゆきだるま  田口綾子

新しい国になりたいならおいで電気はつけっぱなしでいいよ  平岡直子

おっぱいのせいで内面的なものがうまれくる ここ ここにも皮膚が  山中千瀬

この3首はすごく面白いと思った。特に一首目の田口綾子氏に私はある思い入れがある。

2009年7月18日の「朝日新聞(夕刊)」に田口綾子の連作「風上に立つ」が掲載されていた。そこには、

飲みものを迷へるひとの財布から多少はみ出てゐる図書カード

胡椒挽きのもつつややかな曲面に君の煙草の歪むを見たり

傘を差す君の腕には君の血が流るることから目を逸らしたり

坂ひとつ越えて梅雨明け 背骨まであかるく君の風上に立つ

のような作品があったのだけれども、私はこれらの作品を見て無性に自分も短歌を詠んでみたくなった。それ以前は短歌に興味はあっても自分で詠んでみようという発想はなかった。このときに詠んだ数首の短歌はあまりにもできが悪く、私が本格的に短歌を始めるのは2010年の12月となるが、もし田口綾子氏の歌を見ていなければ短歌を始めることはなかったかもしれない。

確かな観察眼に裏付けされた情景描写に、現代的な感慨を巧みに乗せる手法には彼女の高い技量を窺わせるが、それだけではない。どこか洗練され切らない素朴な旋律が読むものの心を打つのだ。現代において特別な価値を持つ歌人の一人だと思う。

2012年4月9日月曜日

ともしびを

今年の1月に亡くなった小泉淳作氏の襖絵が東大寺で特別に公開されていた。極めて精緻なタッチが見るものを驚嘆させていたが、その一方でしだれ桜の花びらや浮かぶ月は単純な星形や塗りつぶした円で描かれていることがおもしろく感じられた。

木の肌と同じ色もてあをによし奈良の小鹿のたたずまひ見ゆ
紅白のはちす花咲く東大寺襖の内に風わたりける
(小泉淳作「蓮池」)
ともしびを順にならべて東大寺鹿はいづこの宿に眠れる

2012年4月5日木曜日

2012年3月

3月に詠んだ短歌をまとめておく。既にこのブログに公開した歌が5首、そうでないものが2首で、計7首。御感想を頂けると嬉しい。

あさみどり苔しく幹にてのひらをかさねて遠き沢の音をきく
(はかなしやわが身の果てよあさみどり野辺にたなびく霞と思へば  小野小町『新古今和歌集』)

雲の色をたしかめたくて 水平線ホライズン 大きな海のはじまりに着く

蟹の爪ひからびてゐる海岸に薄墨色の雲を数ふる

灰色の世界が変はる海の辺にあまねく光ゆきわたるとき

あたたかき風に誘はれ軍艦のただよふ春の横須賀に来ぬ

鈍い青たたへて朝の浜名湖は僕らの高速道路フリーウェイを見てゐた

紋黄蝶とんでゐる場所 あたらしき部屋に来りて庭を眺むる