4月に詠んだ短歌をまとめておく。既にこのブログに公開した歌が4首、そうでないものが17首で、計21首。御感想を頂けると嬉しい。
残照
緑色の世界をみてゐた虫の眼に燃えるグラジオラスの残照
(靉光「グラジオラス」)
もつとたかいところへゆけたら空のやうに僕たちもまた青い存在
(天之蒼蒼其正色邪、其遠而無所至極邪 、其視下也、亦若是則已矣 荘周『荘子』)
木の肌と同じ色もてあをによし奈良の小鹿のたたずまひ見ゆ
紅白の
(小泉淳作「蓮池」)
ともしびを順にならべて東大寺鹿はいづこの宿に眠れる
あたたかい朝もあるから自転車の空気を入れて並木道ゆく
桃色のしだれ桜をかたはらに平等院の春風は吹く
薄日さすもみぢの青さたしかめて桜ちりしく宇治の道ゆく
はなびらと見まがふほどに紋黄蝶さくら舞ひふる鴨川にとぶ
自転車の骨組みゆるく解体し春の風うつ両翼となる
ひともとの楽園
おもたくて――柔くたわめる茎を持ち白詰草に熊蜂垂るる
オレンジ色の層をにじませ暮れてゆく町のあはひに漕ぎ出づる舟
春雨の降る音がする 菜の花の黄色は届かない場所にあり
春雨の降る音がする 楠を順にめぐつて匂ひ立つ朝
春秋をかさねて青き楠の葉のちりゆくものとちりゆかぬものと
もみぢせる葉影ちりゆく楠に残れる若き青き葉を見る
鉄のドアの前にたたずみ色もなく暮れゆく町の蝙蝠を見る
ドアノブは冷たくふれて色もなく暮れゆく空に蝙蝠が飛ぶ
薄翅に白く陽のさす常磐木の葉影ふるなへさまよへる蝶
松かさはすてられずありかごとともに、わたしとともに初夏の町ゆく