2012年12月6日木曜日

未来 2012年12月号秀歌選

短歌結社誌『未来』の12月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『未来』2012年12月号に掲載されているすべての短歌より5首選んだ。掲載順に記す。

1 にぎってる手がぎこちない 駅ビルの向こうにも冷えきった青空  浅羽佐和子

2 心的外傷トラウマにいやされる夜もあるのだしパルプ町からにおう煤煙  柳澤美晴

3 歯みがき粉口内炎にしみながら明日めざめるものとおもわず  柳澤美晴

4 戦争ごっこがはやってるって屋上までのぼってまわりの音楽を聴け  細見晴一

5 鞄にはいつも薄手のカーディガンしのばせておくあたらしい秋  中込有美

1の下の句の句跨りがぎこちなさを際立たせているように感じるのは恣意的な読みであろうか。

――旭川に「パルプ町」という町があるらしい。地名は普遍性を持たないようにも思えるが、「煤煙」と組み合された下の句からは、何の前提知識が無い状態からも確かなイメージを想起できた。「心的外傷トラウマにいやされる夜もあるのだし」――随分当り前のように云っているけれど、これはどうなのだろう。トラウマから逃避することを選び続ける人間にはわからない境地なのかも知れない。

3の「明日めざめるものとおもわず」――2の上の句もそうだけれど、ある種「異常な」内容が本当に当り前のようにさらっと述べられていて、歌全体の描写の中で読者もその内容を当り前のように受け止める――そういうある種の説得力が柳澤美晴の短歌には存在しているような気がした。

――音楽を聴け。

――些細な生活的事象が結句「あたらしい秋」によってのびやかに開放される。あたらしい秋。あたらしい秋が訪れたのだ。

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