短歌結社誌『塔』の12月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『塔』2012年12月号に掲載されているすべての短歌より7首選んだ。掲載順に記す。
1 秋の夜の書架の端より抜き出せば付箋のピンク色褪せており 吉川宏志
2 星にいて星視ることのあやうさのくるぶしを冷しゆく夜にいる 大森静佳
3 産むことも産まれることもぼやぼやと飴玉が尖ってゆくまでの刻 大森静佳
4 白い器に声を満たして飛ぶものをいつでも遠くから鳥と呼ぶ 大森静佳
5 昼の月はいつも一人で眺めおりあの裏にも青い空があるから 大森静佳
6 年月はまぶしき獣 その尾までこの掌で撫でてあげるから来て 大森静佳
7 抽斗のスプーンのように重なって眠りぬ秋の豊かな昼を 大森静佳
1――緻密な描写から突如浮上する「ピンク」の衝撃――しかしその色は既に褪せている。
2の「星にいて星視ることのあやうさの」、5の「あの裏にも青い空があるから」――通常の認識を意図的にずらした表現である。このような試みは「試み」として終ってしまうことが多いが、これらの作品ではぎりぎりのところで陳腐さを回避している。この事は短歌の韻律性と深く関わっているように思う。2の「くるぶしを冷しゆく」の「を」の挿入、5のア行を基調とした「あの裏にも青い」――イレギュラーな、それでいて定型性との絶妙なバランスを感じさせる字余りの第四句が、両歌の内容に微妙なところで説得力を与えているのではないだろうか。
いずれにせよ、最近の大森静佳の作品の充実した内容にはただ驚くばかりで、くどくどと評することが野暮のように思えて来る、ということもまた事実である。
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