2012年8月11日土曜日

塔 2012年8月号秀歌選

短歌結社誌『塔』の8月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『塔』2012年8月号に掲載されているすべての短歌より5首選んだ。掲載順に記す。

1 この世からどこへも行けぬひとといる水族館の床を踏みしめ  大森静佳

2 傘をさすもささぬも自由な新宿の横断歩道を闊歩してゆく  宮崎可奈子

3 一枚の大きなる布なみうたせエイは舞いおり水槽の空  田村龍平

4 鍵のない老父ちちの書斎にかざられし運河の油彩を我は愛する  田村龍平

5 町工場の暗き奥より火花散る火花散る時人影が見ゆ  小坂英輔

1と3は同じ水族館を扱った作品として好対照をなしている。

4は前半の緻密な描写から、結句の直截的な「我は愛する」を滑らかに導入する完成度の高い作品。

2012年8月9日木曜日

2012年7月

7月に詠んだ短歌をまとめておく。既にこのブログに公開した歌が4首、そうでないものが7首で、計11首。御感想を頂けると嬉しい。

ニウス

それぞれの軌道を見せてゆるやかにつばめ散開する町はづれ

雨上がりの腕に小蜘蛛をまとはせてすこしだけ高い空を見てゐた

立葵崩れたままの中庭に青い如雨露をかたむけてゐた

早朝の雨につばめがさらはれた事件のニウスを聴く朝の卓

都はづれに朝はおとづれ山際に鳥の過ぎ去る様を見てゐつ

水分を失ひやすき夏の日に立葵崩れつつ咲き継げり

水分を失ひやすき夏の日は祇園祭の群集の中

あふれだすインクの海をくぐりぬけ夏には白い雲ばかり行く

たかいところひくいところに散らばつた雲をひとひらすくひとるひと

青条揚羽アヲスヂアゲハのさまよふ向きに十字路をはづれてすこしづつ曲がる道

てふてふのまはる向日葵まはるまはるどのめぐりにもひらく花、花。