短歌結社誌『塔』の8月号を読んだ。今月も秀歌選をつくってしまおうと思う。『塔』2012年8月号に掲載されているすべての短歌より5首選んだ。掲載順に記す。
1 この世からどこへも行けぬひとといる水族館の床を踏みしめ 大森静佳
2 傘をさすもささぬも自由な新宿の横断歩道を闊歩してゆく 宮崎可奈子
3 一枚の大きなる布なみうたせエイは舞いおり水槽の空 田村龍平
4 鍵のない
5 町工場の暗き奥より火花散る火花散る時人影が見ゆ 小坂英輔
1と3は同じ水族館を扱った作品として好対照をなしている。
4は前半の緻密な描写から、結句の直截的な「我は愛する」を滑らかに導入する完成度の高い作品。