今年も山吹の花が見られる季節になった。心を開けば、植物はまだ言葉を与えてくれる。
山吹の花びらがゆらめいてゐて風は風としてそれはそれとして
よく冷えた缶コーヒーを飲みながら違いがわかることのかなしさ 土岐友浩「wish bone」(『サンカク』)
よく冷えた缶コーヒーを飲みながら違いがわかることのかなしさ
土岐友浩「wish bone」(『サンカク』)
個人的な話になるが、私は缶コーヒージャンキーである。ジャンキーは自販機で缶コーヒーを買う。ジャンキーは真冬でも冷たい缶コーヒーを買う。ジャンキーは缶コーヒーの名前を覚えない。ジャンキーは見慣れないラベルの缶コーヒーを見ればそれを買う。ジャンキーは缶コーヒーの味の違いが分かる。悲しい。
花瓶だけうんとあげたい絶え間なくあなたが花を受けとれるように 笠木拓「前日譚」(『サンカク』)
花瓶だけうんとあげたい絶え間なくあなたが花を受けとれるように
笠木拓「前日譚」(『サンカク』)
花で埋め尽くしたいと思ったはず。「あなた」を。花で。花々で。しかし――花瓶だけうんとあげたい――無機物。あげるのは無機物。お洒落なのかもしれないけれど。ちょっとひねくれている。「受けとれるように」も凝った言い方。やはりひねくれている。絶え間なくあなたが花を。